ベランダに粗大ゴミの山がある。
それが気になって仕方がない。
早く出してしまいたいけど、自治体への手続きが面倒なのと体力が足りないのとで、後回しになっている。
今日も喉が腫れている。裂けるような痛みがあるけど熱もないし病院に行くほどでもないので、のど飴をなめて白湯など飲んでやり過ごしながら掃除を続けている。
無理はしない。
でも休んでいると頭の中で島津豊久が怒号を飛ばす。
死ぬるは今ぞ!!
敵は最強の徳川井伊の赤備え
相手にとって不足なし
命すてがまるは今ぞ!!
私の敵は徳川でも井伊さんでもない。
今日は亭主の書斎のクローゼットと戦っている。
「ゴミを捨てがまるは今ぞ!!」とつぶやきながら。
子どもたちの古いおもちゃや衣類、本、図工の作品がぎゅうぎゅうに詰まった箱がいくつも入っている難所だ。
それらが空間を圧迫しているせいで、亭主の衣類が大量にはみ出して巨大コウモリの群れの如く書架にぶら下がっている。大変暑苦しい。
コウモリは正しい住処に帰るべきである。
亭主の服もちょっと多すぎると思うけれども(たくさんあっても着ているのはごく一部)、それは亭主が整理すべきものだから手をつけない。私の敵は私の裁量で捨てられるものだけだ。
ここでまた、とある漫画のセリフが頭のなかに巻き起こる。
かくして猟場は漁師の手の中に
有象無象の区別なく
私の弾頭は許しはしないわ
吸血鬼リップバーン・ウィンクルの決め台詞だ。
有象無象の区別なく、いらないものを捨てたい心情にしっくりくる。
どうも平野耕太作品には掃除向けのセリフが多いような気がする。
「ヘルシング」で有名な少佐の演説など、汚部屋に立ち向かう覚悟を決めるときにこれ以上ないほどふさわしい。オリジナル全文は「諸君 私は戦争が好きだ」で検索するといくらでも出てくるので、掃除に改編したものを書いてみる。
諸君 私はお掃除が好きだ
諸君 私はお掃除が好きだ
諸君 私はお掃除が大好きだ
拭き掃除が好きだ
掃き掃除が好きだ
モップ掛けが好きだ
黒カビ取りが好きだ
便座みがきが好きだ
換気扇掃除が好きだ
風呂の掃除が好きだ
排水溝洗浄が好きだ
窓拭きが好きだ
居間で 和室で
子ども部屋で 書斎で
台所で 廊下で
ベランダで 天井で
押入れで 玄関で
この狭い我が家で行われるありとあらゆる掃除行動が大好きだ
ゴム手袋で握ったアルコールの一斉噴霧が敵カビを殲滅するのが好きだ
床上にうず高く積み上げられた不用品が燃えないゴミの日に運ばれていく様には心が踊る
高性能布団掃除機が赤く光りながらダニホコリを撃破するのが好きだ
ラップ音と共にクローゼットから雪崩れてきた紙ゴミをまとめて束ねて紐でくくりまくったときなど胸がすくような気持ちだった
恐慌状態の自分が既に息絶えたカツオブシムシを何度も何度も紙にくるんでゴミ箱に投擲する様など感動すら覚える
諸君 私はお掃除を地獄の様なお掃除を望んでいる
諸君 私に付き従う掃除道具諸君
君達は一体何を望んでいる?
更なるお掃除を望むか?
情け容赦のない塩素系洗剤の様なお掃除を望むか?
防塵消毒の限りを尽くし三千世界のウィルスを殺す嵐の様な清掃を望むか?
よろしい ならばお掃除だ
我々は満身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする絞り雑巾だ
だがこの暗い汚部屋底で四半世紀もの間堪え続けてきた我々にただのお掃除ではもはや足りない!!
大掃除を!!
一心不乱の大掃除を!!
さて、働こう。(´・ω・`)