湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

室町少年倶楽部

山田風太郎「室町少年倶楽部」に収録されている、「室町の大予言」という短編小説を読んだ。(Amazon読み放題)

 

室町少年倶楽部 (文春文庫)

室町少年倶楽部 (文春文庫)

 

 
山田風太郎作品を読むのは、もしかしたら二十年ぶりかもしれない。

 

最後の読んだのは、1996年ごろに朝日新聞で連載されていた、「あと千回の晩飯」。いいエッセイだと思ったけれど、筆者の余命をどうしても意識させられる内容で、切なくなってしまい、あまりきちんと読めなかった。


最初に読んだ山田風太郎作品は、忘れもしない「くノ一忍法帖」である。

 

くノ一忍法帖 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

くノ一忍法帖 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

 

 

 

女性が乳頭から火を噴きまくる「忍法・火炎乳」などという、ぶっ飛んだ忍びの技が、歴史物らしい重厚な文体で、力いっぱい本気で語られている小説である。

 

普通なら、乳が火炎放射したというだけで、呆れて読むのをやめそうなところなのに、物語の熱気と緊迫感と、これてもかと畳みかけてくる真実らしさに飲み込まれて、一気に読了してしまったのだ。


ありえないくノ一忍法の中でも、一番度肝を抜かれたのは、「忍法やどかり」。

 

妊婦が、自分の子宮に宿った胎児を、他人の子宮へ"直接送り込む"という、馬鹿馬鹿しいにもほどがある技なのに、山田風太郎の文章で読まされると、なんだか納得してしまうのである。

 

読み終わってから、山田風太郎が実は医者にならなかった医学生だったというのを知って、二度驚いたことも懐かしい。


今日読んだ「室町の大予言」は、タイトル通り、室町時代を扱った物語である。

 

主人公は室町幕府第六代将軍、足利義教(あしかがよしのり)。


物語のはじめのうちは、義満と、第四代目の将軍である義持(よしもち)との、並々ならぬ確執や、義持の臨終と後継者選びのトラブルなどについて、歴史的事実をなぞるような感じで語られていく。なので、この作品は「忍法帖」とは違って、ストレートな歴史ものなのかしらと思いながら読み進めたのだけど・・・・


途中から、少しづつ様子がおかしくなってくる。


出家していた義教が、兄である義持の死後に、あみだくじで将軍に選ばれるのだけど、彼が還俗した姿の描写に、たいていの読者は猛烈な既視感を覚えるはずである。

 

彼は長身痩躯で、細い口ひげをピンとはやしていた。言語は明晰で、決断的で、まわりくどいことをきらい、諸人を頭から軽蔑している眼をして、かん高い声を発した。

(山田風太郎「室町の大予言」より)

 

 

口ひげ。
かん高い声。


こういう人、いましたよね……室町時代よりも、ちょっと後だけど。


さらに、この将軍義教を、次の三人の人々が、同じ日に相次いで訪問する。


みちのくで名高い隻眼の老大名にして、後年有名になる伊達政宗の祖先である、伊達政宗

足利義満の愛妾だった、気品ある老女、春日の局。

甲斐国の守護の一族で、武勇で名高い、武田信長。

 

いや、絶対おかしいでしょう、この偶然。(゚Д゚;)

 

この三人の訪問があった翌日、足利義教は、何者かが乗り移ったかのようにいきり立って、比叡山に猛烈な焼き討ちをかける。

 

口ひげで、かん高い声で、比叡山を焼き討ちしまくった人、もうちょっと後の時代にも、いましたよね……


その後、徹底的な恐怖政治によって「天下布武」を成し遂げつつあった義教は、家臣である赤松満祐の邸宅に招かれ、大好きな「敦盛」を楽しんでいるところを、赤松一族の謀略によって暗殺されてしまう。

 

その日、赤松満祐の邸宅は焼け落ちるが、その跡地には、「本能寺」が建てられることに。


読み終わってから、ウィキペディアでいろいろ調べた。


仙台藩主の伊達政宗の先祖には、義教の時代に、たしかに伊達政宗という人物がいたらしい。

 

また、足利義満の側室にも、春日局という女性が存在している。もちろん、徳川家光の乳母だった人とは別人である。

 

武田信長も、足利義教将軍の時代に活躍し、のちの上総の武田氏の祖となった人物だという。

 

これらの歴史的事実を、山田風太郎は巧みに混ぜ込みながら、足利家の将軍を、間違って百年早く生まれてしまった織田信長…であるかのように仕立て上げるという、トンデモな離れ業をやってのけている。


さらに、この小説の核となり、足利義教や赤松満祐の運命を翻弄することとなった、「本能寺未来記」という書物についても、作者は、 史実を織り込みながら、眩暈を誘うようなリアル感を醸造している。

 

「上様は、天王寺未来記なるものを御存知でござりましょうか」
天王寺なら知っておるが」


 難波にある聖徳太子が建立されたという日本最古の寺だ。正しくは四天王寺という。


天王寺未来記とは太平記に出て参りますが」
「ほう?」


太平記」は義教も読んだことがあるが、なにぶん大部な史書で、かつそれからずいぶん時もたつので、「天王寺未来記」のことなど、ちょっと記憶にない。
 義教の顔を見て、赤松満祐は、


「それで、本能寺未来記なるものを御説明する前に、天王寺未来記のことについてお耳をけがしたく、ここに太平記巻第六、しかもわが赤松家に伝えられる、太平記円心おぼえ書なる書の一部を持参いたしました」


と、したり顔でいい、たずさえたふくさの中から、ものものしい手つきで一冊の本をとり出した。

 

太平記・・・円心おぼえ書?」
「は、太平記に、南北朝のころ在世したわが曾祖父円心入道が、みずからの体験や感想をいろいろ書きいれたわが家秘蔵の本でござります」


(山田風太郎「室町の大予言」)

 

天王寺未来記」や 「本能寺未来記」は、ノストラダムスの大予言みたいに、日本の未来の出来事が予言された書物なのだという。

 

太平記」、大学の授業でちょっとばかりかじったけれど、まともに読んだことがなかった。あとで引っ張り出して、「天王寺未来記」の記事を探してみよう。