タイトルが「愛を盗んだ紳士」となっているけど、盗んだ感じは全くなかった。むしろ、押しかけられて逃げるに逃げられず、買い取るしかなかったように見えた。
押しかけてきたのは、非実在アラブの王国で、無菌箱に入れられて育ったようなお姫様。ひたすら公務だけをこなす生活にいたたまれなくなり、親の言いなりに結婚する前に、たった一度、1週間だけ自由な暮らしをしようと計画し、旅先のオーストリアで逃走。
王女の計画とは、インターネットで目をつけていた、会ったこともない有名弁護士の事務所に駆け込んで、一方的に自分の世話を申しつけ、親兄弟との駆け引きを、全部弁護士に丸投げするだけという、杜撰この上ないものだった。
普通、そんな面倒くさい女性に押しかけられたら、誰だって全力で関わりを避けるものだと思うけど、王女の持つ異様なレベルの純粋さと、高貴なオーラが凄まじすぎるからか、誰も彼も、なんとなく彼女の思う通りに動いてしまう。
押しかけられた弁護士も、最初は面倒に巻き込まれないように用心していたのに、ただそこにそこにいるだけで、仕事のストレスばかりか、絶対に人に言えないような人生の暗部すらも、根底から浄化してくれる王女に心を奪われ、自分から結婚を申し込んでしまう。
けれども王女は自分の立場をわきまえて、求婚を受け入れることなく、予定通りに帰国。ここで終われば、「ローマの休日」と同じだけれど、弁護士は新聞記者より行動的だった。
諦められない弁護士は、王女の国に飛び、弁護士としての能力をフル動員して、王女の兄や国王をきっちり丸め込み、王女の夫候補を出し抜いて、結婚してしまうのだ。
どう考えても、紳士(弁護士)は愛を盗んではいないと思う。
それにしても、人手を借りないと風呂にも入れないような箱入り王女との結婚生活、どうするんだろう。ちょっと気になる。
トンデモなストーリーだけど、みなみ恵夢さんという漫画家さんの絵がきれいで、楽しかった。