ずっと読まずに敬遠していた、三浦綾子の「氷点」のKindle版が、読み放題(Kindle unlimited)(に入っていたので、いい機会かもしれないと思い、ダウンロードした。
敬遠していたのは、あらすじのせいだ。
医師の妻の不倫中に、幼い娘が殺害される。
夫は妻の裏切りを知っていたけれど、表だって妻を責めることはせず、報復として、殺人犯の娘を、妻にはそれと知らせずに養女として迎える…
と、内容をちょっとばかりかじっただけでも、舞台となった北海道の旭川市が氷結したドロドロの渦巻く、おぞましくも異様な世界であるように思われて、たじろいでしまう。
実のところ、ドロドロは苦手だ。心から。(T_T)
しかし読みたい。
作者の三浦綾子はキリスト教を深く信仰していた人であり、「氷点」は、キリスト教的な観点から人間の原罪について深く考えさせられる作品となっているという。
原罪。罪。
日曜学校で聖書について習っていると、キリストが背負って死んでくれたものとして、頻繁に出てくる概念であるけれども、それがなんなのか、私には分からない。
せめて日本人のキリスト教者が、どのように罪を考えていたのか、知る手がかりがほしいということもあって、三浦綾子の小説を読みたかったのだけど(エッセイはいくらか読んでいる)、「氷点」をはじめとして、どれもたじろぐようなあらすじの物語ばかりなので、なかなか手をつけられずにいたのだ。
なにはともあれ、たじろいだままでは読み始められないので、ちょっとづつ心を慣らす目的で、コミック化された「氷点」のお試し版を、ちょろっと見てみた。
コミックの「氷点」は、ドロドロどころか、冴え冴えとした美の世界のようである。
不倫妻も、不倫相手も、寝取られ夫も、殺された娘も養女となった娘も、氷の彫像のように冷え冷えとうつくしい。
けれども、コミックでは、冒頭からいきなり、不倫妻の長男(美青年)が、養女となった妹(美少女)に、禁断の愛の告白をしてしまうという、ヤバい状況から始まっている。これは不倫とは違った意味で、胃にきそうな展開だ。この二人、どうなってしまうのか。
・・・まだ原作を読む勇気が出ないので、今度はドラマ版を探してみることに。
医師の不倫妻役は、若尾文子だったらしい。
Amazonビデオで予告編を見た(有料レンタル可能)。
罵り合う医師夫妻。
うつくしく成長した養女につらく当たり続け、「あなたは殺人犯の子」と憎悪を込めて宣告する、若尾文子。衝撃を受けて、雪の中で自殺を図るらしき養女。彼女を追って、雪原を疾走する若尾文子。
こ、怖かった(T_T)。
さらに、「氷点2001」の主題歌の動画を見てみた。
二十一世紀の不倫妻は、浅野ゆう子が演じている。
そして、雪原ではなく石だらけの河原を失踪し、多量の薬で自殺を図った娘を発見。
いとおしそうに娘をかき抱く不倫妻・・・・いや、蘇生してあげようよ(T_T)。
だいぶ心の準備はできたので、読み始めることにした。
冒頭は、舞台となった旭川市郊外の辻口邸の描写。
そのすぐあとから、辻口医師の妻である夏枝と、青年医師である村井との、きわどい駆け引きが描き出される。
「夏枝さん」
白いしっくいの壁を背にした夏枝の前に立ちふさがると、村井は夏枝の肩に手を置いた。村井の手のぬくみが、浴衣を通して夏枝の体に伝わった。
「いけません。怒りますわ、わたくし・・・・」
村井の顔が覆うように夏枝に迫った。
「村井さん、わたくしが辻口の妻であることを、お忘れにならないでください」
夏枝の顔が青かった。
「夏枝さん、それが忘れられるものなら・・・ぼくはそれを忘れたい! 忘れられないからこそ、今までぼくは苦しんで来たんじゃありませんか」
村井の手が夏枝の肩を激しく揺さぶった、その時であった。廊下に足音がして、ドアが開いた。
ここで入ってきたのが、夏枝の夫である辻口だったなら、これから起きるすべての惨劇は起こり得ず、うつくしすぎる若尾文子もワガママそうな浅野ゆう子も、死にゆく娘を追いかけて疾走する必要はなかったはずだった。
けれども入ってきたのは夏枝の幼い娘、ルリ子であり、村井との不倫のドラマに浸っていたかった夏枝が、その場からルリ子を追い払ってしまったがために、ルリ子は命を落とすことになる。その後、許すことのできない大人たちの思惑が絡み合った末に、辻口夫妻の養女となった陽子の自殺という悲劇が起きてしまうわけだ。
それにしても、読み始めてみると、一気に引き込まれる文章だ。
覚悟も出来た。
続きを読もう。
「氷点2001」の主題歌、きれいだな。。。
悲しいけども。