湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

垂乳根の母は何者?


2005年11月02日

朝、末っ子(生後9ヶ月)におっぱいをやっていて、ふと、疑問に思ったことがある。


大昔、高校の古典の時間に、「たらちねの母」といういうのは、過酷な授乳生活のために乳房がだらんと垂れ下がってしまった母のことを言うのだと教わった。

 

たしかに「たらちね」に当てられている漢字は「垂乳根」だし、いかにも胸が垂れているというイメージの字面だけれど、それはもしかしたら単なる当て字だったのではなかろうか。

 

だって、母を話題にするのに垂れた乳などという肉体の特徴をわざわざ特記するというのは、ヘンではないか。

 

たとえそれが育児を終えた勲章だとしても、枕詞にまでしてわざわざ言い立てるのは悪趣味というものである。


「たらちねの母」が、育児を引退した女性にだけ使うのなら「垂れた乳」でもいいかもしれないが(私は嫌だが)、そういう断り書きは辞書にはない。授乳で活躍中の乳房は、垂れてしなびているヒマなどない。とすると、垂れているのは乳房ではなく、豊かにあふれる母乳であろうか。それならまだ分かる。

 

でも、そうだとしても、「たらちね」の「ね」って、何なのよ。滴り落ちる乳の根っこ? 意味分かんないし。

 

と思って亭主に聞いてみたら、「ね」というのは、「姉(あね)」の「ね」と同じで、女性を表すものではないかという。

 

さらに、「たらち」については、「垂れた乳」でも「滴る母乳」でもなく、「たらつ」あるいは「たらす」という動詞から来ているのではないかと推測していた。

 

「たらす」は、動詞「足る」に尊敬の助動詞「す」がくっついた、上代特有の表現で、「満ち足りていらっしゃる」のように解釈される。仲哀天皇(日本武尊の息子)の名前が、


     たらしなかつひこのみこと


だったというが、この「たらし」も「足らす」だったのだろう。

 

「たらす」の関連語には「あまたらす」なんていうのもある。天足らす。すなわち、天界に充ち満ちていらっしゃる、という意味である。「天照大神」のアマテラスなんかも、この語から来てるんじゃなかろうか、という説もある。

 

もしも「たらちねの母」の「たらち」が、「たらす」と同系統の意味を持つものだとすれば、


  乳飲み子を、さらには一家を、
  十分に満ち足りた状態にしてくださる女性


という意味になるのではなかろうか。

 

これを(強引に)拡大解釈すれば、一家の主導権をガッチリ握るゴッドマザーという意味にもなりえる。

 

実際、万葉集に出てくる「たらちねの母」は息子や娘たちの同行を厳しく監視して、不純異性交遊に走らないように防御したりと、いかにもゴッドマザーな行動に出ている例もある。つまり子供の婚姻の決定権を握っているのである。


たらちねの母、カッコイイじゃん。

 

(過去日記を転載しています)