長女さん(6歳)に懇願され、固くなったパンを持って、公園のハトに会いにいった。
公園で、いつもハトにえさをやっているおじさんを見て、ずっとうらやましく思っていたらしい。
「パンのふくろは、自分でもつからね。おかーさんにも、少しあげるから」
なんて言って、やるきまんまんだった。
長女さんにパンを持たせると、数十羽のハトがさーっと飛んで寄ってきた。
ハトの社会もせちがらい。体の大きい、毛並みのつやつやしたようなのが、投げたパンをほとんど全部さらっていく。色黒でやせっぽちのハトは、突き飛ばされてはじっこに押しやられ、パン粉のひとかけらも口に入らない。
なるべくその小さなハトにパンが行くように投げてやるのに、臆病なものだから、飛んできたパンに驚いて後ろに引いてしまう。そこにまた、喉をふくらました大きなハトが図太く入り込んで、落ちたパンを全部さらっていく。
そこで、長女さんにパンをたくさん持たせ、体の大きなハトを全部そちらにおびき寄せて、私ははじっこに佇んでいるやせハトにこっそり近づいた。
パンを投げると驚くから、やせハトがこっちを見ていないときに、そっと地面に置いた。それから、小声で「こっちだよ~」と呼んでやった。それでようやく、やせハトはほかのハトに気づかれずに、パンを少し食べることができた。
その間、おとりになっていた長女さんは、大きなハトにたかられまくって、辟易したらしい。
「公園では、ちゃんと公園でする遊びもしないとね」
と言いながら、滑り台で遊ぶ息子(5歳・重度自閉症)をうらめしそうに眺めていた。
(2002年12月27日)
※過去日記を転載しています。