湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

疲労

焦ろうとくたびれようと、時間は一日一日と過ぎていく。

 

きのうはなんだか疲れてしまって、風呂上りに倒れるように眠ってしまった。

 

息子(3歳・重度自閉症)が、教えたことばを復唱するようになっている。ただし、教えてすぐに言ってくれるわけではない。日中、五百回から千回ぐらいも教えた言葉を、深夜になって、ぽつんとつぶやく、という程度の復唱である。しかも、そうやって覚えてつぶやいた言葉を、翌日も言ってくれるとは限らない。

 

息子は、よく音を聞いている。以前は人の声とそのほかの雑音の区別もつかなかったようだけれど、このごろは一つ一つの単語をきちんと聞きとって、だいたいの意味をつかむことも出来ているようだ。それなのに、知っている単語を声に出して言うということが、息子にはものすごく難しい。

脳のなかの発音のための回路が、なんらかの理由で断線しているのだと思う。

 

テンプル・グランディンの手記を読むと、幼少期に息子と同じような状態だったことが書いてある。彼女は大人の言葉をほぼ完全に理解できていたけれど、自分では意味不明の奇声を上げることしかできなかった。けれども、乗っていた車が事故を起こすなどして心身に強いストレスがかかると、いきなりすらすらと言葉が出るのだった。

 

強烈なストレスがかからないと、息子の発音回路も機能しにくいようである。どうしても取ってほしいお菓子があるとき、息子は何度も何度も助走するかのように息をためてから、しぼりだすように「てってー」と言う。何も取ってほしいものがないときや、たいして追い詰められていないときには、なかなか「てってー」が言えない。「つけてー」も同じである。オモチャの電源を入れてほしくてたまらず、気持ちの上でどうしようもなく追い詰められないと、言葉でお願いすることが出来ないのである。

 

どうしてこんな回路の不備が存在するのかは、全くわからない。息子は、小脳や脳梁の一部に障害を持っているので、そのことが何らかの形で影響しているのかもしれない。脳の機能に詳しい専門家なら、きっと答えてくれると思うのだが、いまのところそういう人にはめぐりあうことが出来ていない。息子の脳を検査した脳外科医は、「自閉症は、一生治らないよ」と言っただけだった。私が何をどう質問しても、「治らない。分からない」と繰り返すだけで、脳の異常と知的障害との関連性について考察する気はさらさらない様子だった。

 

誰か、私に教えてほしい。


小脳が小さかったり、脳梁や右脳の血流が悪かったりした場合、言語能力にどんな影響を与えるのかを。


そして、その影響を回避して、訓練によって機能回復すめためには、どんなリハビリテーションが必要なのかを。

 

小脳を全く持たなかった(病気で壊れてしまった?)女性が、日本舞踊の先生をしていたという事例が存在するのだと聞いたことがある。小脳は、体を動かすために重要な役割を果たしていると言われるが、それを全くもたない人でも、踊りのように洗練された動きの専門家になることが出来るのである。おそらく脳の別の部分が、小脳の分の働きまで担ってカバーしていたのだろう。

 

それと同じことが、息子の脳のなかでも、きっと起こるだろうと私は考えている。
ただ、どうやってそれを起こせばいいのかが、分からないのだ。

 

とりあえず、普通のひとが普通にやれるようなことを、課題やドリルにして、息子に与えていくほかはない。息子の脳に、普通の人がやっていることがどんなことか、知らせなくてはならないと思うからだ。

 

果たして、うまく伝えることが出来るだろうか。

 

(2001年7月22日)

※過去日記を転載しています。