ゆうべ、息子(3歳・重度自閉症)と長女さん(5歳)が一緒に遊んだ。
これは我が家にとっては大変な事件なので、詳細を記録しておかなければならない。
昨夜九時過ぎだったろうか、風呂から上がって蒲団を敷こうかというころに、長女さんが亭主に、
「とーちゃん、ふーせんをふくらまして」
とねだった。風船は、ゴムが分厚く大きなものだったので、亭主はタコになって息を吹き込んでいた。
風船がふくらむと、どこからともなく、息子がやってきて風船を取り、抱きかかえて逃げ出した。それを長女さんが「まてー」と追う。
ここまでは、よくあることだった。
どうせまた取り合いのケンカになるのだろうなあと思ってみていると、息子が不意に、長女さんの頭上に風船を放った。なんだかバレーボールのトスのような具合だった。
長女さんは喜んで、風船をアタックした。息子は飛んだ風船を追いかけ、再び長女さんめがけてトスをあげた。長女さんはすっかり面白くなって、変な掛け声をかけながらボールを打つ。すると息子は大喜びで、長女さんを追いかけ回す。風船をつかむと、すぐに長女さんにトスをあげる。
長女「うーん、まんだら~」
息子「うきゃきゃきゃきゃー」
長女「うりゃっ、ぶらじるー」
息子「きゃきゃきゃー」
ものすごい騒ぎだった。
一番驚いたのは、息子が長女さんの顔からほとんど目を離さなかったことだ。
ちゃんと、長女さんの表情を読んで、アイコンタクトをしながらトスをあげているのだ。
二人の立つ場所にも、息子はよく気をくばっていた。
長女さんが部屋の隅っこに行ってしまうと、息子が手を引っ張って中央に移動した。そして長女さんが自分に注目するのを待って、上手にトスを上げる。
それは、まるで「普通の子供たち」が遊んでいるかのような光景だった。
風船投げをしている間、息子から自閉の気配は消え去っていた。
自分の産んだ子供たちが、こうして共に遊びはしゃぐ光景を見ることができるなんて、この一年半、思ってもみなかった。
息子は、長女さんが自分と同じような子供で、しかも自分と違う視点を持っているということを、この上なく理解していた。
息子は、長女さんのことを、道具ではなく、豊かな表情と意志を持った、遊び仲間と認識していた。
「こういうことをさせておくのが、ほんとは一番いいんだよなあ」
と亭主がいった。私もそう思った。
療育として構えて行うことよりも、質・量ともにはるかに高いコミニュケーションの基本を、子供同士の遊びは教えてくれるのだと、実感した。
もちろん、これまでの療育が功を奏したからこそ、息子は自分の姉と遊ぶことに気づいたのかもしれない。療育が自閉の壁を突き崩して穴をあけ、遊びはその大切な穴をさらに広げる役割を果たしていくのかもしれない。
うんざりするほど暑いと思っていた夏だが、なんだかすてきな夏になりそうな予感がしてきた。
(2001年7月16日)
※過去日記を転載しています。