今回は、壬生忠岑の秋風の歌。
秋風にかきなす琴の声にさへはかなく人の恋しかるらむ
(あきかぜに かきなすことの こえにさえ はかなくひとの こいしかるらむ)
古今和歌集 巻第十二 恋二 586
【語釈】
はかなし……
・頼りない。虚しい。
・あっけない。些細なことだ。ちょっとしたことだ。
・たわいない。取るに足りない。
らむ……目の前の事態から、その原因や理由などを推量したり、疑問に思ったりする場合に用いることもある助動詞。
この歌のなかには、疑問を表す表現はないけれど、作者にとっては自明のことである、自分自身の「はかなく人の恋しかる」という心情を推量するというのはおかしい。
そのため、「なんで俺はこんなことになってるんだ!?」というふうに、原因や理由に対して疑問を投げかけていると解釈する。
【怪しい意訳】
恋って、マジで厄介。
自分の心がまるでコントロールできなくなるから。
秋風の吹く日に、琴の音色を聞いた。
たったそれだけのことで、もうあの人のことで頭がいっぱいになってしまう。
なんで、こんなに恋しくなるんだろうか。
どんなに思ったって、報われることとのない、虚しいだけの恋だって、分かってるはずなのに。
ほんと、しんどいな…
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ちなみに本書では、上の歌を次のように訳している。
【訳】秋風の吹く中、どこかでかき鳴らす琴の、その声にさえ、どうして甲斐もなくあの人が、恋しくなるのだろう。