あいかわらずの不調。
得たいの知れない極度の不安。
数十秒に一回、何かに「ぎょっ」とする感じ。
特定の音に過敏。とくに電話やドアのチャイム。
外出が、極度にしんどい。
食欲は少し戻ったけど、自宅に一人でいるときには、ほとんど何も食べられない。
軽度の(と自分では思っている)パニック発作の再発である。
これが、かれこれ10日ほど続いている。
先週、主治医には状況を報告したけど、なんか妙に強がってしまって、「休んでれば回復する」みたいなことを強調してしまった。アホかと。でも、薬の増量を望んでいないから、そう言うしかなかった。抗不安薬、あれは、ヤバい。少なくとも私には合わない。飲めば確実にラクになるけど、強烈な依存を引き起こす。それを体験したから、もう飲みたくない。
なんにせよ、まいった。
とにかく薬に頼らずに、人生の「安心」を取り戻したい。
日常の、なだらかでつつがない感じ。
あれを心身が忘れてしまっている気がする。
しんどくて何も読めなかった間、古典に触れたいと、心底思った。
なので、唐突に万葉集を読みはじめた。
枕元の本棚にあった、この本。
たぶん、学生のころに買ったんだと思う。
わかりやすいけど、あまり好きではない。
上代特殊仮名遣いなどについての国語学の研究業績をうっすらバカにしていたりするし。
でも重たい本は仰向けに寝転がって読めないし、他の本を探す元気もないので、この新書を頭から読みながらメモを取ることにした。
最初に掲載されていた歌。
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万葉集 巻二 88 磐姫皇后
秋の田の穂の上に霧らふ朝霞何処辺の方にわが恋ひ止まむ
(あきのたの ほのへのきらふ あさがすみ いつへのかたに わがこひやまむ)
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これはきっと、ほとんど視界ゼロの濃霧だろうと。
かろうじて周囲の稲穂や稲の葉は見えるものの、四方どこを見ても霧に阻まれ、見通しが全くきかない状態ではないかと想像する。
周囲の木立や建物などは、輪郭のさだまらない灰色の影でしかなく、朝日が当たれば黄金に輝くはずの稲穂も、枯れ野の草の色合いと変らない。
そのくらいの陰鬱な光景でないと、磐姫皇后の逸話からうかがい知れる深い苦悩との釣り合いがとれないように思う。
豊かに実った稲穂ともども、輝きを阻む懊悩の霧に閉じ込められて、一歩も動けない詠み手には、もはや恋を停止することでしか救われないと分かっている。
人の心の中の恋の停止、恋の決着などというものは、いつ、どこで、どのようになされると明確に説明できるようなものではないだろう。草木が枯れ落ちてじわじわと朽ちていくように、それを抱え込んだ人の心や命を蝕みながら、終ろうにも終われない長い時間を占め続けるのではなかろうか。
それにしても、磐姫皇后と、その夫だった仁徳天皇の夫婦問題は、浮気や嫉妬による痴話喧嘩というには、血なまぐさすぎる。そしてちょっとワケがわからない。
ウィキなどを拾い読みして、粗忽に理解したところでは、
・もともと嫉妬深いことで知られていた磐姫の留守中に、仁徳が異母妹と浮気。旅先てそれを知った磐姫は激怒し、そのまま家出(?)。
・異母妹が磐姫の怒りを畏れて退散したので、仁徳はさらに別の異母妹に求愛。
・その異母妹は、磐姫の怒りを畏れて仁徳の求愛に答えずに別の男性と関係し、その男性にクーデター(仁徳殺害)を起こすようにそのかす。
・怒った仁徳は、部下に命じて異母妹とその夫を殺害させる。
・その部下の妻が、殺害された異母妹の装身具を身につけていたのを、いつのまにか帰宅していた磐姫がめざとく見つけて、部下を処刑。
・嫉妬深い磐姫の死後、仁徳はやっと最初の浮気相手だった異母妹を皇后に迎える。
磐姫の心情と同じくらい、歴史も霧のなかにある。
で、イメージ画像みたいなのを(iPhoneでテキトーに)描いてみたんだけど、心象がモロにかぶったようで、暗いわー。
さて、夕方からまた病院。
外出たら黒い太陽が見えそうだ。
出たくないなあ。
病院受付まで、徒歩五分なんだけど。