湯飲みの横に防水機能のない日記

色々壊れてて治療中。具合のよくないときに寝たまま携帯で書くために作ったブログです。ほんとにそれだけ。

映画「タイピスト」を見た

Amazonプライムビデオで見つけた作品。

 

 

タイピスト! [DVD]

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フランス映画を見るのは、ものすごく久しぶり。

字幕スーパー版だったので、フランス語の響きを嫌でもたっぷり堪能できる(大学で選んだ第二外国語がフランス語だったけど、もちろん、木っ端微塵に忘れ果てた)。

 

 

タイピストが女性の職業として輝いていた、1950年代の欧米が舞台。

 

フランスの田舎娘のヒロインは、親が経営する、よろず屋的な店で働いていたけれど、父親の勧める男と結婚するのがどうしても嫌で、街の保険会社の求人に応募して採用され、秘書として働くことになる。

 

ところが彼女には事務能力が全くなかった。

今でいうところの、片付けられないタイプの女性でもあるらしい(私と同類だ)。

 

そのため、クビになりかけるのだけど、保険会社の社長は、ヒロインに、稀有な才能があることを見抜いていた。彼女は、我流の一本指打法で、とんでもなく素早くタイピングができるのだった。

 

この時代には、タイピストの早打ちコンテストなるものが存在していて、華々しい世界大会まで行われていた、らしい(知らなかった)。

 

社長はヒロインに、クビにしない条件として、コンテストで優勝することを課し、そのためのトレーニングに協力すると提案。

 

横暴な社長の言い分に、ヒロインは怒ったけれども、クビになれば親のいいなりに結婚させられる人生を歩むしかない。

 

偉そうな社長と、跳ねっ返りのヒロインは、お互いに反発しあいながらも、二人三脚でのスポ根みたいに過酷なトレーニングを開始。大量のタイピング練習のみならず、読書による教養の習得、姿勢の矯正、果てはランニングまで、社長はこの上なく親身に世話を焼き、ヒロインも努力で答えていく。

 

適切なトレーニングによって、もともとの才能が見事に開花し、ヒロインは地区大会とフランス大会で、見事優勝を果たす。

 

その過程で次第に心が通じ合い、フランス大会前夜に、二人の間には明確な恋愛感情が生まれていたはずだった。

 

けれども、表彰台で喜びにかがやくヒロインの微笑みを見て、社長はヒロインから身を引くことを決意。

 

強気でゴーマンな社長は、第二次世界大戦で多くの友を失い、己の無力に絶望した過去のために、自分は女性の愛を得るのにふさわしくないと信じていた。ヒロインの優勝のために献身的にサポートを続けて来たけど、実力で輝かしい名声と未来を手に入れた彼女には、もう自分は必要がないと判断したのだ。

 

社長と別れたヒロインは、深く傷つきながらも、タイプライター会社の経営者をパトロンとして、イメージガールとしてCMやイベントに出演し、全仏の女性たちの憧れになっていく。

 

その成功を孤独に見守りつつ、荒んだ生活を送っていた社長は、やがて、自分の中にある弱さを認め、ヒロインを深く思う気持ちを素直に自覚するに至る。

 

 

世界大会の決勝で、世界最強のアメリカ人選手の悪口攻撃でポイントを落としたヒロインは、会場に駆けつけた社長と出会い、その深い愛が自分に向けられていることを確信して、奇跡のような記録を叩き出し、優勝を果たす。

 

愛が勝つ、ハッピーエンドだと言える。

 

 

それはそれとして、女性が社会で自己実現を志すことや、男性と対等の関係になることが、とてつもなく難しかった時代があったのだということを、深く考えさせられる映画だった。

 

タイピストは女性ばかり。

しかもコンテストに出場する彼女たちは、ミスコンかパーティにでも出るような、美しく洗練されたドレスを身につけなくてはならない。

 

 

タイピングという、会社での補佐的な仕事の能力と、 男性を魅了する女性的な美しさを兼備することによって、愛と栄誉と富と名声を得られるという構図は、やっぱり息苦しいものがある。

 

でも、そこを突っ込んでも仕方がない。

そういう時代は、たしかにあったわけだから。

 

この映画では、そういう時代に生きる男性の苦しさにも触れている。横暴な社長は、ヒロイン同様に家父長的な家の束縛のなかにあり、実の父親には力を認めてもらえずにいる。その社長の父親を、酔ったヒロインが思いっきり面罵するシーンもあった。

 

 

話は飛んで…

 

あの、アームに乗った活字が飛んで紙に文字を打つタイプライターが、とても懐かしかった。

 

私の世代(1960年代生まれ)でも、あの種類のタイプライターを実際に使ったことのある人は、おそらくほとんどいないと思う。

 

 私は大学時代、かなタイプを必死で練習したことがある。毎日二時間、空き教室に、先輩から借りた、重たいタイプライターを持ち込んで、ひたすらブラインドタッチの練習をした。

 

なんのためにそんなことをしたかというと…

 

卒論の資料作成のために、用例カードを大量に作らなくてはならなかったのだけど(一枚のカードに100文字ほど書き取ったものを、数千枚)、手書きが面倒くさすぎたので、機械に頼ろうと思ったのである。

 

あ、ちなみに、ポータブルのワープロが、学生の入手可能な値段になる前夜というあたりの時代。

 

 

面倒を回避するために、毎日下手くそなタイプの練習をするのを見た人に、

 

「手で書いた方がはやくない?」

 

と、散々言われた。

 

ひらがなしか打てないタイプライターだから、用例カードも全部ひらがなになる。それは、とても読みにくかった(⌒-⌒; )。

 

でも、二ヶ月ほどの特訓で、曲がりなりにもブラインドタッチができるようになり、その後、ワープロ(液晶画面に20字ほどしか表示されず、インクリボンで印字するタイプ。もちろん漢字も打てる)に乗り換えたことで、作業は手書きの数倍も楽になった。

 

まだフロッピーデスクではなく、カセットテープに文書を保存していた頃のワープロだ。シャープの「書院」、だったかな。

 

 

 

映画を見ながら、そんな懐かしい過去を、ひさびさに思い出した。